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てのりの ビジョン策定プロジェクト

株式会社サンロフト 様

Research, Planning, Design, Prototyping

2021 - 2023

てのりの ビジョン策定プロジェクト

これからも愛されるサービスを目指して、
てのりのの未来の姿を考えるプロジェクト

「てのりの」は、サンロフトが提供する無料の保育動画配信アプリで、全国の幼稚園、保育園、認定こども園と園児家庭をつなぐ機能を最大の特長としています。コロナ禍によって幼児教育・保育の現場における動画配信のニーズが高まっている状況から、園の保育や日常などを手軽に配信できるサービスとして2020年6月にリリースされました。

リリースから約1年が経過した現在、2300以上の園に導入され、保護者ユーザーからの満足度は97%に達するなど、多くの園と保護者に愛されるサービスに成長しています。今ではコロナとは関係なく利用されるようになり、導入した園の創意工夫により当初は想定していなかったさまざまな動画の活用方法が生み出されるなど、新たな可能性を考えるようになりました。

そこで目指すべき未来を考え、サービスが担う役割と創造する価値を定義するプロジェクトが始動しました。フェンリルはサービスデザインパートナーとしてプロジェクトに参画。てのりのがこれからも愛されるサービスとして成長するためのビジョンづくりを、サンロフトと共同で検討しました。

相談されたこと
  • てのりのがどのようなサービスを目指すべきかを考えたい
  • サービスの未来にどのような可能性があるのかを検討したい

プロジェクトの内容

  • これまでのサービスの取り組みを整理し、大切にしたいことを定義した
  • ビジョンを実現するためのサービス設計案を作成した
  • ビジョンを伝えるクリエイティブ案を作成した

ユーザー調査とワークショップを通して、
サービスのビジョンを明確にする

サービスの未来を考える上で重要なのは、何を最も大切にすべきかを明確に定義することです。

てのりのはユーザーの要望に応える形で成長してきました。しかし多くの選択肢にあふれた現代においては、要望に応えるだけでは競合とスペック表を埋める戦いを強いられ、ユーザーに選んでもらう理由(優位性)を作ることが困難な状況に陥ります。何を作るのか(価値提供)だけではなく、どのような世界を目指すのか(価値提案)をユーザーに示し、共感してもらわなければいけません。これがすなわちビジョンです。

このビジョンはどこからともなく現れるものではなく、現在の取り組みの延長線上にすでに存在しているはずです。そのため、まずはサービスが何を大切にしているのかを整理することから始めました。

まずは今のてのりのがどのような役割を担い、どのような価値を生み出しているのかを探るため、ユーザーの声からヒントを得ることにしました。サービスのメインユーザーは園で動画を撮影、共有する保育者と、その動画を家庭で視聴する保護者の2種類です。保護者に対してはアンケート調査を、保育者に対してはオンラインインタビューを実施し、どのように使われているのか、どんな価値を感じているのかを洗い出しました。

それらの情報をもとに、2日間に及ぶ共同ワークショップを実施。ユーザーとサービス提供者の両方の視点からてのりのとはどんな存在なのかを一緒に整理することで、最も大切にするべきことは何かを検討しました。

最終日にはメンバー全員で「これからのてのりので大切にしたいこと」について合意を形成し、そこで出てきたいくつかのキーワードをもとにビジョンの策定へと進みました。
ワークショップの様子はnoteでも公開しているので、詳細はそちらをご確認ください。

ワークショップの結果をもとにフェンリルで要素を整理し、ビジョンを最もシンプルに定義できる一文に落とし込み、提案しました。提案内容をもとにサンロフトと協議を重ね、細かいニュアンスにも十分に留意して、てのりのの本質を捉えた「育児の安心を社会の当たり前にする」という表現に結実させました。

さらにビジョンをわかりやすく表現したブランドステートメントや、ブランドパーソナリティなども用意し、抽象的なサービスにより具体的な輪郭を持たせました。このように目指すべき未来を明確に定義し、それらを全ての議論の土台として機能させることでサービスに一貫性が生まれ、長期的なサービス成長へとつながっていくことになります。

育児の安心を社会の当たり前にする、
そんな未来を実現するためのサービスを考える

「育児の安心を社会の当たり前にする」というビジョンは、とても大きな目標です。これを「てのりのが何を提供すれば実現できるのか」という視点で考えるのは、ほぼ不可能と言っていいでしょう。これらは「グッズドミナントロジック」といわれる考え方です。事業者を「生産者」、ユーザーを「消費者」という一方的な関係性で定義するため、生産できるものが生み出せる価値の限界となります。

しかし今はユーザーと一緒にサービスを育てる価値共創の時代です。事業者も利用者と一緒に「価値を生み出す創造者」として定義するため、その関わり方によって生み出せる価値は無限に広がります。これらは「サービスドミナントロジック」と呼ばれ、サービスデザインで最も重要な考え方の一つです。

てのりののビジョンを実現するためには、この価値共創の視点をサービスに組み込むことが必要です。そのため保護者や保育者だけではなく、保育関連の事業者や専門家、地域の住民などを巻き込んで一緒に子育てをしていく仕組みはないだろうか……。

そこで考え出したのが「クローズド」と「オープン」という概念です。

「クローズド」とは保育園と家庭を中心とした身近な空間です。保護者と保育者という子どもと直接的に関わるユーザーがより直接的で深いつながりを持ちます。「オープン」とは保育に携わる人が広く交流を持てるような開かれた空間です。全国の保護者や保育者、関連事業者や専門家がお互いの知見を共有する場として機能し、多くの人たちの知識と思いが保護者と保育者を支えます。

このアイディアをもとに、グロースサイクルを使って体験、収益、認知拡大を含めた価値共創の仕組みを具現化。未来のてのりののサービスとしてのあり方を検討しました。

サービスの目指す方向をビジュアルで示す

言葉や仕組みでビジョンを定義できましたが、それだけではどんなサービスなのかを想像するのは困難です。そこでこのビジョンをもとに、ロゴマークやキービジュアル、アプリといったサービスの根幹をなす要素がどうなるのかを試作しました。

抽象的な概念を取り扱いやすい形に具現化することで、はじめてリアルなイメージが持てるようになります。このプロトタイピングを通して、てのりのがどのようにユーザーと関わりを作り、成長していくのかをシミュレーションしました。

プロトタイピングにあたり、まず私たちはブランドステートメントの作成から取りかかりました。てのりのが目指すところをシンプルに表現した文章で、ブランドの存在意義や理念を掲げたメッセージです。

さらにブランドパーソナリティも定義しました。これはブランドが持つイメージ、つまり「てのりのらしさ」を決めるプロセスで、人にたとえて「てのりのさんはこんな人」という視点からブランドの特徴を絞り込んでいきます。ここでは、「信頼できる」「親しみやすい」「思いやりがある」「応援してくれる」「気遣いができる」という5つの特徴を規定しました。

このようにブランドパーソナリティを定義しておくことで、具体的な施策を考えるとき、ビジュアルやコピーのトーンを判断する指標になります。てのりのらしい見た目とは? 語り口とは?を考えるうえで、プロジェクトメンバーの共通認識を作る重要なプロセスです。

 

てのりのというサービス名には「手のひらで成長を見守る」という意味が込められています。ここから素直に発想して、サービスのビジュアルは、保護者と保育者だけではなく多くの人たちが育児に携わっている姿、「子どもを育てる手」をモチーフに表現してはどうだろうと考えました。

シンボルマークは小さくても伝わるように抽象化したビジュアルです。抽象的だからこそ、見ようによってすくすく育つ樹のようにも方々に広がる輪のようにも見える遊び心を持たせました。

キービジュアルは大きなサイズで使えるので具体的な表現に。ぬいぐるみで遊ぶ手を親しみやすいイラストで表現しました。ぬいぐるみのほかにも、赤ちゃんのほっぺた、ミルク、絵本、どんぐり、積み木という計6種類のイラストがあり、どれも子育て中のワンシーンを描いています。

シンボルマークもキービジュアルも、手は余白で表現しています。この理由は、子どもと保護者と保育者をつなぐてのりのは、前に出るのではなく黒子のようにユーザーを支える存在で、主張しない見え方がふさわしいと考えたからです。直接的に描かれないけれどそこにいる、てのりのが目指す姿をビジュアライズしました。

シンボルマークと並ぶロゴタイプは既存の欧文書体をベースに作字したものです。サービス名がひらがなだと検索したときにヒットしにくいという課題があったため、ローマ字表記に変えました。ブランドパーソナリティにある信頼できて親しみやすい印象を持たせるため、かっちりとしながら温かみもあるかたちを目指しました。

プロダクトの理想像を実装可能な水準で検証する

「クローズド」と「オープン」の概念を取り入れたアプリとはどのようなものか? プロジェクトチームでイメージを固めようと考え、アプリのコンセプトモデルも試作しました。

情報設計では、OOUI(オブジェクト指向UI)の視点で既存アプリをリバースエンジニアリングすることから始めました。現場でのユースケース、今回目指すべきビジョンをもとに要素を整理。アプリで最も重要な要素(コアドメイン)を絞り込み、構造を検討しました。

主軸となるのは施設の保護者と保育者が安心してプライベートにやり取りする「クローズド」、誰でも参加して広くコミュニケーションができる「オープン」という二つの空間。それらの要素をタブとして組み込むことで、双方をスムーズに行き来できる、新たな構造を実現しています。

iOSアプリを想定し、Human Interface Guidelinesの根底を成すAppleのデザイン思想に則って骨格を組み上げました。SwiftUIを使って仮組みをすることで、慣習的なオブジェクトモデルと画面構成を目指し、同時に最低限のインフラ構成を検討しました。

このようにコンセプトモデルとはいえハリボテではなく、そのまま実装できる粒度で設計しています。サービスの成長とともに機能数や取り扱うコンテンツの種類が増えることを見越した、拡張性の高い作りにしました。

ビジュアルの観点では、ブランドカラーをプロジェクトで運用しやすくなるように、プライマリカラーとセカンダリカラーを中心に10段階の濃度違いで表したカラーパレットを作成しました。

また、タブバーに並ぶ主要な機能のシステムアイコンや、ユーザー同士がコミュニケーションを取るときに使うスタンプも作り込んでいます。どちらのビジュアルも、ロゴマークやキービジュアルとつながりを感じるトーンを心掛けました。

これらのプロトタイプは実際にユーザーの目に入り、手に取られることを想定しています。机上で話し合うだけではわからないサービスの具体的な姿が明らかになり、プロジェクトチームが目指すべきユーザー体験を高いレベルで確認できました。

クライアントからの声

このプロジェクトでは、直接デザインに関わらないメンバーにも自分ごととしてクリエイティブの決定に関わってもらうことを大切にしました。それは完成したものに愛着を持ち、長く使いながら一緒に成長していくようなものになってほしいと思っているからです。

てのりのチームのマネージャーやマーケター、サポートスタッフが真正面から意見を出してくれたこと、フェンリルのみなさんがそれを受け止めて磨き上げてくれたことをとても嬉しく思います。まずは良いものができたという達成感と、これからてのりのが成長していくことへの期待感を抱いています。

今後の展開

このプロジェクトは、サービスがどのように成長するべきなのかを、サンロフトとフェンリルが一緒に模索した取り組みです。今回のプロジェクトで生まれた「育児の安心を社会の当たり前にする」というビジョンの実現に向けて、てのりのはこれからも前進し続けます。より良い社会の実現を目指す企業のパートナーたり得るように、フェンリルも一緒に成長したいと考えています。

Credit

Creative Direction :
Taiki Yamamoto (Sunloft)
Project Management :
Tsubasa Shibata
Research :
Madoka Onishi
Planning :
Tsubasa Shibata
Copy Writing :
Yoshihisa Shimada
Art Direction :
Hiroki Nakanishi
Design :
Hiroki Nakanishi, Hinako Ito, Masaki Kawano
Illustration :
Hinako Ito